高校生と社会をつなぐ探究インターン 旭硝子財団が取り組む探究学習プログラム
2022年より全国の高校で「総合的な探究の時間」(探究学習)が必修科目となりました。実社会や実生活との関わりから問いを見いだし、課題を立て、情報を集め、整理・分析し、まとめ・表現する力をつけていくことを目的とした学習です。
朝日新聞社と博報堂は、協賛企業と連携して探究学習を支援するプログラム「探究インターン」を始動。旭硝子財団との連携事例は、「身近な暮らしと地球環境」をテーマとしたオンライン授業を展開しています。全国10校以上の高校から約900人の生徒が参加しました。旭硝子財団の啓発支援事業部長で博士(理学)の田沼敏弘氏、啓発支援事業部次長で博士(工学)の伊勢村次秀氏に、探究インターンを実施した背景や授業を通じた手応えについて伺いました。
探究インターン企画資料
社会課題を学びに変える、探究学習というアプローチ
──旭硝子財団の活動の概要についてご紹介ください。
田沼氏 旭硝子財団は、旭硝子(現・AGC)株式会社の創立25周年を記念し、翌年の1933年に設立されました。「人類が真の豊かさを享受できる社会および文明の創造への寄与」を目的に、応用化学分野の研究助成から活動を開始。1990年には助成対象分野を拡大し、1992年には顕彰事業として環境国際賞「ブループラネット賞」を創設しました。
さらに2018年には、学生への奨学助成を行う公益財団法人旭硝子奨学会を吸収合併。2024年には、若い世代のための啓発支援事業を加え、現在に至ります。
─4つの事業「研究助成」「顕彰」「奨学」「啓発支援」について、それぞれどのような活動を行っているのでしょう。
田沼氏 研究助成事業では、次世代社会の基盤を構築する自然科学分野の独創的な研究や、社会の重要課題の解決に指針を与える人文・社会科学の研究を支援しています。顕彰事業では、ブループラネット賞を中心に、地球環境問題の解決に向けて科学技術の面で著しい貢献をした個人や組織を表彰しています。奨学事業は、産業・経済・社会の進歩や向上を担う優れた人材育成を目的に、大学院修士・博士課程の優秀な学生や留学生へ、返済義務のない奨学金を支給しています。啓発支援事業では、未来を担う若者に地球環境問題への関心を高めてもらい、その解決に向けた行動を促すため、専門家による講演や学校での探究学習支援などを行っています。
田沼敏弘氏
──これらの取り組みの中で「次世代の若者」はどのような位置づけでしょうか。
田沼氏 若い世代は、地球環境問題への取り組みを継続・発展させ、社会実装へとつなげる担い手であると同時に、将来的に環境問題の影響を最も受ける世代です。だからこそ、前向きな変化を起こす起点となってほしいですし、私たちも一緒に行動していきたいと考えています。
一連の取り組みは、「啓発支援=高校生・大学生」「奨学=大学院生」「研究助成=若手研究者」「ブループラネット賞=課題解決に向けて貢献した研究者」というように、若い世代がいずれはブループラネット賞の対象となるような流れを祈念して設計されています。
伊勢村氏 ブループラネット賞受賞者による記念講演に高校生や大学院(奨学)生を招く取り組みや、高校生が同賞受賞者にインタビューする企画なども設けています。世界的に活躍する研究者と若い世代をつなげられるのも、4つの取り組みを通じた当財団の強みです。
──啓発支援事業の一環として探究インターンを実施する狙いや、探究インターンならではの魅力、ほかの教育プログラムとの違いなどについてお聞かせください。
田沼氏 旭硝子財団の単独では実現が難しいコンテンツ制作力やメディアネットワークに魅力を感じました。当財団では、若い世代が環境問題をより深く理解し、解決に向けて第一歩を踏み出すことに期待して啓発支援を行っています。課題解決に向けた主体的な考えや行動につなげていく探究インターンは、その“第一歩”を後押しする非常に意義のあるプログラムだと感じています。40分×5回の授業には10校以上、約900人の高校生が参加する規模感にも、大きな魅力を感じています。
伊勢村氏 ある調査によると、海外の若者は「環境対策は自分たちの未来を守る」と考える人が多い一方、日本の若者は「環境対策は生活コストが増加し快適さが損なわれる」と考える傾向があるそうです。当財団は、科学技術の発展や環境問題の解決に資する活動を通じて、若い世代が未来のよりよい環境づくりに向けてポジティブな発想を育めるよう支援をしたいと考えています。その上で、探究インターンは魅力的なプログラムだと感じました。
企業にとっての「社会的価値」と「内的価値」
──実際に探究インターンに取り組まれてのご感想を教えてください。
田沼氏 探究インターンでは、「かえる・のこす・つくる」という観点から課題を捉える思考法や、アイデア発想のプロセスを分かりやすく解説してくれたところが印象的でした。複数の高校が同時に参加し、アイデアや意見を他校の生徒たちとオンラインで共有できるため、「学校を超えて同世代の多様な意見を知ることができ、学びの深化や刺激が得られた」といった感想が聞かれたことも非常に有意義でした。
伊勢村氏 今回の授業で言うと、“さかなのおにいさん かわちゃん”による特別授業など、テレビ番組を見る感覚で学べる工夫が随所にありました。生徒が楽しめる授業の進め方や、意見の引き出し方など、「朝日新聞社×博報堂」ならではのノウハウや工夫が感じられました。社会とつながりたい生徒や学生にとっても、若い世代とつながりたい企業や団体にとっても、入りやすいプログラムではないかと思います。旭硝子財団としては、高校生たちが地球環境の悪化についてどんなことを思っているのか知ることができて興味深かったです。また、流行のスマホアプリを活用したゲーム感覚の環境対策など、斬新なアイデアがいくつも出てきたことにも驚かされました。
伊勢村次秀氏
──探究インターンに企業や団体が関与することの価値についてはどのように考えますか?
田沼氏 利益の一部を社会に還元する取り組みは企業の責務であると同時に、ともに社会課題の解決に取り組む「将来の仲間」を増やすという意味でも、価値のあることだと感じています。
伊勢村氏 個人的にも、環境負荷低減に取り組むAGC株式会社の事業や、若い世代の意識啓発を支える旭硝子財団の活動を大変誇りに感じています。こうした取り組みを、探究インターンのような外部のプログラムを通じて社会に伝えていくことは、組織やそこで働く職員にとって大きな価値になるのではないでしょうか。
──今後の展望についてお聞かせください。
田沼氏 今回の探究インターンにおいては多様なアイデアが生まれました。それだけに「発想して終わり」ではもったいないため、アイデアが次につながる流れが必要だと感じています。引き続き、探究インターンを活用しながら良い流れを作っていければと考えています。
伊勢村氏 探究インターンの授業は大変工夫されており、生徒たちにとって刺激的な学びの場になっていました。一方で、学校で確保できる時間が限られているため、「もっと深く考えたい」「もっと議論を続けたい」と感じた生徒も多かったのではないかと思います。だからこそ、授業後も双方向のコミュニケーションを継続することに意味があります。地道な積み重ねが成果につながる環境対策と同じように、若い世代の環境意識が着実に育まれることを願い、探究学習の支援を今後も継続していきます。
初めての企業でも参加しやすい 企業と高校生をつなぐ「探究インターン」という選択
ここからは、朝日新聞社と共同運営を行っている博報堂のご担当者、コマースデザイン事業ユニットプロデュース局ビジネスプロデューサー の本宮圭氏にお話を伺いました。
博報堂 コマースデザイン事業ユニット プロデュース局 ビジネスプロデューサー 本宮圭氏
高校での「総合的な探究の時間」の必修化が象徴するように、正解のない問いに向き合い、課題を発見し、考え抜く力の育成は、社会構造が急速に変化する現代において、ますます重要になっています。「探究インターン」は、そうした探究学習を支援する朝日新聞社と博報堂による新しい教育サービスです。
朝日新聞社は、情報を集め、発信するプロフェッショナルであると同時に、数々の教育事業を展開し、全国の学校とのコネクションを有します。博報堂は、情報を整理して課題解決のためのアイデアを考えるプロフェッショナルであり、教育財団を有しています。両社の強みを最大限に活かしながら、協賛企業や団体が実際に向き合っている社会課題を題材にした授業を、全国の高校生に無償で提供しています。
通常のコースでは、オリエンテーションを含めて4回のオンライン授業をします。複数の高校が同時に参加し、生徒はリアルタイムで意見を入力したり、講師やほかの人の意見を確認できたりと、双方向性を重視しています。
旭硝子財団と連携・企画した授業では、10校以上、約900人に対して40分×5回(うち1回は“さかなのおにいさん かわちゃん”の特別授業)の授業を実施。受講生は、旭硝子財団の取り組み「環境危機時計」に込められた思いを学び、環境問題について考え、グループで議論しながら解決策を提案しました。提案されたアイデアはどれも具体的でユニークでした。
また、授業の前後に実施したアンケートでは、以下のような結果になりました。
探究インターン実施による成果
・社会課題への関心:+18.5pt
・社会課題に関わる仕事への関心:+10.8pt
・参加生徒数:約900人(10校以上)
授業を受けた生徒からは、「かえる・のこす・つくるの考え方は今後の探究学習に役立ちそう」「未来は自分たちが考えて作っていかなければと自覚した」「他校の意見から様々な視点を知ることができた」「都会と田舎では視点が全然違う」などの声が寄せられました。
教員からも、「環境問題のテーマはありきたりな問いや実践になりがちだが、旭硝子財団の環境危機時計の例が良かったため、多様な意見が出た」「社会人との交流が生徒にとって非常に学びになった」「引っ込み思案な生徒たちが安心して参加できるプログラムだった」といった評価が寄せられました。
一方で、「ワークやディスカッションの時間を増やしたい。相互のやり取りをもっと高めたい」といった声もありました。学校のカリキュラムの中でできることは限られてしまいますが、時間が足りなくなるほど興味を持っていただいたことをプラスに受け止めています。もっと議論したい生徒さんのために少人数の特別授業を設けるなど、新たな取り組みにつなげたいと考えています。将来的には、優れたアイデアをプロトタイプ化し、社会実装へと発展させていくことも目指していきたいと考えています。
高校生にとっては、第一線で活躍する社会人と交流し、知識やスキルといった“実践知”を学ぶ機会となります。企業や団体にとっては、若い世代に自らの活動や社会課題への取り組みについての理解を深めてもらい、共に考える機会となるプログラムです。探究学習に取り組む学校や、次世代育成・社会課題解決に関心を持つ企業・団体に、ぜひ気軽に参加していただきたいと思っています。
探究インターン企画資料
